面接画報|山賀ざくろ (1)

ダンサーである山賀ざくろとの出会いは2年前の秋だった。彼は『えんがちょ』という作品でそれまでの作風を脱ぎ去り変貌すると同時に、ダンサーとしての活動を背水の陣と覚悟決め、地元前橋で戦っていた。彼は甦った。所在ない心の揺れ、やりきれなさ、いたたまれなさをそのままに舞台に立つ姿は、酸っぱくて柔らかいありのままの彼。それから冬に再演を、春には新作『エレガンス』を、季節の移り変わりとともに見てきた。彼の儚い恋への憧憬を象徴するような『えんがちょ』の作品コメントを紹介しよう。

『女の子との愛についてはいつもついてない僕ですが、
 気分がルルルの日もたまにはあります。』

彼のせつない後ろ姿は作品を追うごとに深みを増し、深みにはまっていく。

リアルな生活
手塚 前橋の「踊りに行くぜ!!」※1は2002年の…
山賀 10月。
手塚 そうだっけ?2年前の10月か…懐かしいね。その後、恋の進展はいかがですか?という所から入るのはどうでしょうか?
山賀 そこから入るか…痛いとこ突かれたな…。
手塚 前回インタビューした時は私も独り者だったわけだけど、今は結婚して子どもがいて…山賀さんはその後いかがですか?(笑)
山賀 ずるいじゃん…結婚して子ども欲しいなとは思っているけど…その思いを…
手塚 作品にしてるのかな?もうちょっと前段階だよね。
山賀 それがいいんだな、リアルな生活を活かして…
手塚 そうだよね、結婚して子どもがいたらああいう作品は創れないかもしれないものね。
山賀 うーん…結婚して子ども作ってみないと分からないけどね。
手塚 じゃ、結婚して子どもができていたら、どういう作品を創ってるかな?
山賀 分からないなー。それだったら相手の女性じゃなくて、子どもがテーマの作品になっているかもしれない。ちっちゃい子供はかわいいよね。NHK教育テレビの「おかあさんといっしょ」の体操のおにいさんになりたかったくらいだから、子供といっしょに踊るのはやりたいな。
※1「踊りに行くぜ!!」…選抜されたアーティスト達が様々な地方でダンス公演のショーケースを行う企画。

岡田智代とランデヴー
手塚 今度また公演がありますよね。ここにチラシがあるけれど、「ランデヴー」という公演名で、岡田智代※2さんとソロ作品を出し合うみたいですね。山賀さんの作品のタイトルは『いんびぃ』ですか…これは、新作かな?
山賀 新作になりますね。
手塚 どういう意味ですか?「いんびぃ」って。
山賀 いわゆる「インビ」という言葉なんだけれども、幾つか意味があって、「隠微」っていう、隠れていてよく分からない状態という意味がひとつ、まあ人生よく分からないなー…というような。でもイヤラシイという方の「淫靡」の意味もある。英語にも実は「インビィ(yimby) 」というのがあって「Yes, in my backyard」の略で、例えば廃棄物の処理場とか、原子力発電所とか、必要なのは分かっているけれど自分の家の近所にはできて欲しくないものを、逆に「自分の庭につくってもいいよ」というように肯定する意味です。「いいよ、オッケー!」という意味として、これもありかな。この幾つかの意味合いの気持ちは作品にあるから。
手塚 岡田智代さんと作品をやることになったいきさつは?
山賀 岡田さんが「一緒にやらない?」って言ったから…。
手塚 (笑)なるほど。じゃ一番最初に岡田さんを知ったのは?
山賀 横浜にあるSTスポットという小劇場の企画で「ラボセレクション」というダンスショーケースに出演した時かな。
手塚 それまで全然知らなかった?
山賀 名前は知らなかったけれど、彼女がこれも同じくSTスポットのダンスショーケース「ラボ20」の公開ディスカッション(本番の少し前にお客さんを交えてキュレーターに制作過程の作品を見せ、作品についてディスカッションするプログラム)を見に来た時、俺の作品が終わったあと楽屋に来て『えんがちょ』のあるシーンについてアドバイスしてくれた。それが岡田智代さんだということを後で知ったけれど、そのアドバイスのお陰で作品の修正ができたんです。
手塚 それは大きいですね。岡田さんは当時から山賀さんの作品に注目していたのかもしれないですね。
山賀 そうそう、それでラボセレで一緒になることを喜んでくれていたみたいです。
手塚 そうでしたね。でもその時はまだ山賀さんの方は岡田さんの作品を見たことがなかったんですよね。
山賀 そうですね。ラボセレで見た『パレード』が一番最初でした。その後「踊りに行くぜ!!」の東京選考会で『L.D.K』を見ました。
手塚 なるほど、岡田さんの作品を見た印象は?
山賀 東京選考会で6組の出演者がいたのですが、その中では一番強い印象でしたね。だから、きっと通るだろうと思っていたけど、通らなかった…。
手塚 岡田さんは年齢的な近さからも山賀さんに親近感があるのかもしれませんね。
山賀 そうかもしれない。他にも俺の作品を見て年齢的に近い女性が「私もがんばらなくては」と思い作品を創りはじめたということがありましたけど、岡田さんのように3人の子育てをしながら活動してる姿を見て励まされる人もいるんじゃないかと思いますね。
手塚 ところで、山賀さんはいくつなんでしたっけ?
山賀 9月で45才になりました。
※2 岡田智代…岡田さんは三児の母となって後、久々にダンスのある日々を過ごすことになる。2002年1月、ラボ20#12で『L.D.K』という作品を上演。いわゆるダンスの技術とはかけ離れた、立ち位置を全く動かさずに最大限ダンスな瞬間を展開する作品であった。同年9月、ラボセレクションにて『PARADE』を初演。2003年5月、山賀氏も出演したラボセレクションで『PARADE』を再演。

一人前の男
手塚 このチラシすごくいいですね。特にこの山賀さんの作品コメントがいいなー。「一人前ノ男ニナル為ノ長ク曲ガリクネッタ道ハ続クヨ何処マデモ」。
山賀 まあ、人生その通りですからね。
手塚 じゃあ、山賀さんにとって一人前の男とは?
山賀 って何ですかね~。一人前の定義…。ま、ちゃんと一人で生活していけるっていう事だと思いますね。
手塚 (爆笑)
山賀 やばいことに親と一緒に生活してるとねー。お袋がねー、させてくれないんよねー。だからなかなか一人前にはなれない…。
手塚 じゃあダメじゃないですかー。一応、長く曲がりくねっていてもそこに向かって行くわけでしょ?
山賀 でもゴールはないんですよねー。だって、ゴールのある人なんているんかな、って思うし。これで100%やりきったっていうことはないですよね、俺の場合はね。そういうこと満足できる人もいるんだろうけど。一回一回の作品もそうだけど、「今日はとても楽しかった!」とか毎日の生活でもいつも満足できる人もいるかもしれない。でも、俺はどこか…100%ってないなー。ダンス公演でも、良かったけどあの部分はちょっと良くなかったとか…完璧主義って言うわけじゃないけど、キッチリはしてる方なんで、ある部分ね。だからキッチリできないと嫌なんで、ルーズにする。キッチリを求めない。
手塚 ルーズでも、それで満足すればいいわけでしょ?
山賀 うん、そうだけど、でもルーズなままだとねー…
手塚 うーん…なんだか意味が分からなくなってきました。話をもとに戻すと…「一人前ノ男ニナル為ノ長ク曲ガリクネッタ道ハ続クヨ何処マデモ」で、人生がそうなわけですよねー。それでなかなか一人前になれないと。ね、そういう話でしたよねー、お袋がいるからということで…。
山賀 ま、それだけじゃないですけど。例えば普段の生活とかでも何かあればやってくれちゃったりするから…遅くまで稽古したりして帰ってきてメシを食べようとして、自分で何かしようとしてもササっと動いて何か出してくれたりするわけですよ。本人も「私がいないとちゃんとやらないんだから」「私が死んだらどうすんの!どうすんの!」って言うし。
手塚 やばいね。まあ、込み入った親子事情はもうこれ以上…。
山賀 確かに、なんだかんだと口うるさいお袋だけど、感謝の気持ちはあるので、そろそろお袋を安心させたいって気持ちはある。そういう意味でも一人前の男にならなくてはと…。でもまあいろいろと人生には自分の理想や思いの通りには事は進まないから。

彼の作風と立ち姿
手塚 じゃあ、そういう部分も作品に生きているワケですか?
山賀 あ、それは影響するよね。
手塚 どんな風に?
山賀 作品を創るって言っても、じゃあ夕方5時に仕事終わって帰ってきたとして、すぐ練習を始めて作品の事にピッと頭が切り替わるかというとそういうことは絶対なくて、仕事をした疲れもあるし、仕事内容の余韻が残っていたりとか、すぐ作品創りに打ち込めないからちょこっとテレビ見たりとか、ウダウダしていて30分くらい経って、なんとなく始めるってことになるよね。そういう風に、気持ちの切り替えは下手かもしれない。例えば人と話をしていても、何か絶対違うことを考えていたりとか…よく人の話を聞いてないって言われるし。自分はちゃんと応対しているつもりなんですけどね、なんか違うことを考えてるみたいなんですよね。何をしていても違うことを考えているんですよね。
手塚 それと、さっき話に出た何をしても満足しないというのと関係あるかもしれないですね。
山賀 そう、一つのことに集中しないのかもしれない。
手塚 いろいろとアレも気になるし、コレも気になるし…。
山賀 そう、そう、そう。
手塚 それで何か満足できないなー…という感じかな?
山賀 そう、そうなんだよね。舞台に立ったときもやっぱり何かお客さんの雰囲気で、誰かの顔が見えちゃう
とか、そういうことが気になっちゃう時は結構集中できないかもしれない。例えばスポットライトがあ
たって周りが何も見えないで真っ暗な状態とかならいいけど、人の気配があるとダメなんですよね。だ
から気が小さいって人に言われるんですけど、実際気が小さいし、よく言えば繊細なのかな。
手塚 …。
山賀 そういう人付き合いが上手く出来ずに、世渡りが下手ということも、一人前になかなかなれない要因でもあるかな。
手塚 なるほど…。また、何処にいても満足できないとか、いろいろと気が散ってしまうというのが、作風になっているようにも思えてきますね。
山賀 気が散るというか、何かしなくてはとかいろいろ思ってソワソワしてしまうんですよね。
手塚 ああ、所在ないという感じかな?舞台に立っている時の山賀さんの佇まいはまさにそういう、いてもたってもいられないというような雰囲気がありますよね。何か微妙に気持ちが揺れていて定まらない感じ。それが何か柔らかいような印象に繋がって作品に生きている様がとても面白い。男の人は、どっしりしてるダンサーとか、
芯がしっかりしてるとか、スッと伸びているとか色々いるけど、山賀さんのような芯のない柔らかいダンサーはなかなかいないかもしれない。しかし、所在ないというのは舞台だけでなく普段からそうなんですね。
山賀 そうそう、こう言った方がいいかなとか、何かしてあげた方がいいかなとか、こうしない方がいいかな
とかいう風にやたらと気を使ったり。そういう意味でお袋は気を使わなくてもいいから…。
手塚 またそこでお母さんが出てくるわけですか?
山賀 ま、気を使わないでいいと言えば、やっぱり家族かなと…。
手塚 ああ、それが奥さんだったらいいね、っていう事ですよね、結局。
山賀 そう、そう!そ~なんだけどなかなかね~。
手塚 それを求めて…曲がりくねった道を何処までも行くわけですね。
山賀 かもね。