面接画報|山賀ざくろ (2)

冬の終わりに、東京でとあるダンス公演を観に行った。子どもがいるので久々の劇場である。そこで、前橋からはるばる見に来ていた山賀ざくろに出会った。「よー、劇場でよく会うねー」という感じで、帰りに軽く対談しました。対談するのは面接画報で2度目。かなり、軽く雑談してるけれど、結局ダンスについて、アーティストについて深く考えることになった。
3月に二人とも本番を控えている。作品を創る前にいつも色々な事について改めて考えさせられるけれど、この会話もそういったキッカケの1つになったかもしれない。

歌舞伎の中に見たダンス
山賀 こないだ、浅草に歌舞伎を観に行ってさ、新春浅草歌舞伎を。これは若手がやってるんですよ、20代くらいの人達がね、主役をやるようなね。「身替座禅」という演目をやった中村勘太郎がすごくよくてね。台詞ももちろんあるけれど、舞踊的で体の動きで見せる作品だったんだけどね、細かい所作や間の取り方とか、お囃子にどんぴしゃでシンクロしている体の動きから溢れ出る心の動きがダイレクトに体感できて、観ていてついつい自分の心も体も踊らされてしまうような。人の見ていてそういう瞬間があるのがいちばん心地いいわけで。
手塚 ダンスでそういうのは無いんですか?最近。
山賀 コンテンポラリーダンスだとそういうのがあんまりないんだよね。手塚の去年のBankARTのも、観ていてほとんど心が踊るなんて瞬間はなかった(笑)。でも、つまらなかったのかというと、そうではなくて、川の流れや雲の動きをぼーっとずーっと永遠にながめているような気分にさせられたわけだから、やっぱりすごい作品だったよ(笑)。心が踊ってしまうような快感はないにしても、あの時間はなんだったんだろう?という、後々に何か引っかかるものが残るダンス作品はもちろんある。おもしろい人、変な人はいっぱいいるもん。ただ自分の求めるダンスと違うっていうのはあるかな。
手塚 具体的に今はどういうダンスを求めているわけ?
山賀 ダンス始めたのはね、バレエダンサーがピルエットくるくる廻るのとか、劇団四季の人とか足を真上まで上げて踊るのをテレビで観て、うわーすげー!俺もこういう風になりたい!って思ったのがきっかけなんだけど。それなりに長いことダンスやってきて、自分の好きな動きというか、やりたいことがハッキリしてきたと思うんだよね。ダンス始めたころはどんなダンス観てもほとんど全部感動してた(笑)。今はね、人の作品観てても、自分だったらどうするだろうとか、どこか冷めた目でダンサーの動きを追っていることがよくあって、そういうのがあるから、色々コンテンポラリー観ても、純粋に楽しめるってことがあんまりないし、残念だな。だから「歌舞伎を観る」とかそういうことの方がいいんですよね。
手塚 じゃ、歌舞伎の何が山賀っちの心を動かす要因になるのかな?芸の確かさってこと?
山賀 うまいというだけじゃない何かもあると思う。「その人」が見えるという感じはあるな。それと「そのキャラクター」が良く見えているとか。
手塚 でも、芝居でそのキャラクターがよく見えるというのとは違うんでしょ?
山賀 それも少し共通したモノがあるかな。それも体の中に反映させているというか。歌舞伎は鳴り物があって、「ドンドコドンドコ」と鳴っている中で、体の動きを当てはめていくわけでしょ。そういう意味でも好きなんだけど。あ、そう、日本ぽいモノが好きなのかもしれない。
手塚 へー。
山賀 日本舞踊でも京舞なんかのあのゆっくりとしたのより、わりとアップテンポのが好きだなっていうのが前からあってさ。体が反応する。
手塚 どういうところが好きなの?あるいはどういう要素が好きなの?
山賀 テンポとか、メロディーラインとか、お囃子とか。
手塚 なんで、他のダンスのリズムと違ってそういう日本ものの、要素が好きなの?
山賀 たまたま…
手塚 えー…考えてみてよー。

歌舞伎のリズムと山賀のリズム
山賀 そういうビートだけじゃなくて、お囃子に「よっ!」とか「はっ!」とか入るじゃない。弾きながらさ。ダンスだと裏打ち、ん・ちゃ・ん・ちゃ、みたいなさ。それとはまた違うんだけれどもさ。そういうノリが自分に合ってるのかもしれない。かけ声であるとかね。
手塚 へー。山賀っちの体のリズムに合った何か、反応させる何かがあるのかな。山賀っちの作品にはそれに近いことってあるの?
山賀 俺の作品では歌モノの曲を使うことが多いんだけど、踊ってて2コーラスくらいまではいいんだけど、3コーラスくらいからは曲に飽きちゃうことがよくある。
手塚 (笑)それ今の話と関係あるの?
山賀 それは、飽きるのは、ビートがずっと同じだからなんだよね多分。
手塚 和風の方は違うの?
山賀 そう、ずっと同じじゃなくて、ちょっとまったりしたり、急に早くなったり、またどっしりと重くゆっくりになったりと、変化に富んでるんだよね。間とか休符の取り方もかな。
手塚 あー、なるほど。生き物みたいにリズムそのものがいろいろ変化していくような感じなのかな?確かにそれは山賀っちのダンスに通じるところがあるね。西洋のダンスでそういうリズムのものってないの?じゃあ、もしかしたらアジアの他の国では、音楽とか西洋のリズムと違うモノがあるかもしれないよね。

音にインスパイアーされる?
山賀 作品を創るというよりも、1時間なら1時間、音楽かけっぱなしで、飽きずに面白がって踊ってる所を見せていられたらいいなー。
手塚 前にハワイアンかけながらずっと踊ってるの観たけれど、あれはあれで面白かったね。普段、いろいろな曲を使うじゃないですか?どうやって選んでるんですか?作品に手をつける前に、この曲使いたいとか思うんですか?
山賀 同時進行だったりすることが多いんですけどね。
手塚 『ヘルタースケルター』とかは?その曲を聴いてやりたいと思ったんじゃないの?
山賀 ああ、あれはそうだよね。岡崎京子のコミックマンガの方が先かな…。マンガの名前が「ヘルタースケルター」なんだよね。
手塚 ああ、そうなんだ。
山賀 最後のシーンでビートルズのヘルタースケルターの曲がかかると主人公の女の子が出てくるというシーンがあって。それが衝撃的なんだよね。その作品に刺激をうけたんだけどね。「変身」という要素が大きい作品だと感じて、だからあの俺のやった「ヘルタースケルター」では女の子に変身するとどうなるか?っていうことをやってみた。そこに繋がるわけですよ。
手塚 なーるほーど。深いねー。でもぜんぜん気づかなかった。
山賀 まあ、それを見せるのが目的ではないからね。インスパイアされるだけど、それでいいんだよね。

山賀の新作は果たして?
手塚 新しい作品はどうなの?今創っている?
山賀 うん、さっき言った作品で初めて、女装して踊ったということがあったので、もう一回やろうかどうかというのが悩みどころなんだよね。
手塚 悩みどころなんだ?まだ決めてないんだ?
山賀 ん、まーねー。
手塚 「卒業」っていうのは何なの?
山賀 うん、だから女装して踊るのはこれが最後にしようかなーって思って。
手塚 (笑)
山賀 そういう線もあるし、何か俺、中途半端で。キリをつけたいっていうのもあるんだよね。
手塚 えー?これでダンスやめるとか?
山賀 いや、やめないけどね。なんか区切りをねー、人生の中で、イマイチつけてないような感じがあって。
手塚 決めなくちゃならないんじゃないの?何に決別するかを。
山賀 うん、そうだねー。そのへんは曖昧なんだよね。
手塚 (爆笑)意味ないジャンよおー。
山賀 うん卒業するつもりだったけど、やっぱり留年しようかなーとか。卒業?するの?しないの?どっちにするの?みたいなさ。( )がつくようなさ。
手塚 なるほどねー。
山賀 それ、決められないのはいつもの通りだけどさ。
手塚 じゃ、いつもの通りなんだ。
山賀 そう、そうなんだけどねー。舞台に立ったときに、どっちなのか?卒業するのかな?っていう。で、3月は卒業シーズンだしね。

お互いの作品づくり
山賀 手塚はどういうところに興味があって作品づくりしているのかな?
手塚 今までは、体の一部分に意識を集中したりすると、体が勝手に動いてしまったりとか。
山賀 それも、よく体が勝手に動くよなって思うよね。
手塚 余りにも一部分だけに意識を集中したらね、他の自分ていう感覚が薄くなってしまうのね。物質的なモノのほうが、体の一部っていうその部分の方がクローズアップされすぎてしまい、自分の一部というよりはそこが勝手に生きているみたいな感じになって、そうなると体が勝手に動き出すんだよね。
山賀 どこか体の一部分を意識するとかさ、ずっと止まってますとかさ、そういうのはできないタイプなんだよねー、俺。
手塚 ああー…。
山賀 だから手塚的手法がまずできない。集中しよう、集中しようと思うことが、もう駄目。15秒くらいで駄目っていうかね。子どもみたいにワーって動いてるときに何か面白いものが生まれてくるから、集中できないよね。
手塚 でも、『えんがちょ』の最初のところはさ。
山賀 あー、あれは辛くってねー。
手塚 (笑)あーもしかしたらあれ、山賀っちが辛いから面白いんだね。もう立ってるだけで、すっごくおかしくなっちゃうんだよね。立ってる姿が…。何か耐えてるっていう感じなのかね。
山賀 決まり事をもうやりたくないなーというのは、あるんだよね。それなんで、即興的にばーっと1時間なら1時間踊れちゃえばいいなーというのがあるんだけど。でも、実は負荷を与えられた方がいいんかな?本当は…。
手塚 うん、だからちょうどその間くらいがいいよね。
山賀 うん、その両方というかね。
手塚  そういう意味で私はdie pratzeで見た『愛の嵐』が良くて。あれはほぼ即興に見える状態に持ってくることができたように思う。
山賀 頭っから即興だったもんね。
手塚 でも段取りはきまってるでしょ?
山賀 それはね。
手塚 段取りがはっきりあることと、その中で自由であるということが、ちょうどいいバランスのラインを出せたと思う。そのラインがでたらそれが成功だと思う。それがどうしても細かい所まで創り込まないと不安になったり、あるいはそれがすっかりいやになって、全部即興になってしまったり、そのちょうどいいラインを見つけだせないとどっちかに振り切ってしまうのではないかな。それはもったいないよね。
山賀 うん、そうだねー。
手塚 次回作は、きっとそれが絶妙のラインに…
山賀 分かんないけどねー。
手塚 て言っておいたほうがいいかなと思って。
山賀 かな。

山賀 二人の方法論はぜんぜん違うし、それを見てほしいよね。
手塚 そうだね、両方見て欲しいよね。
山賀 上演する日も一週間の違いだし。
手塚 どのようにぜんぜん違うのか見て欲しいですね。
山賀 話は合うけど、やってることは違うもんね。
手塚 それから、「道場破り企画」で山賀っちを破りに行くしねー。そちらもいつになるかはまだ未定だけど、是非乞うご期待!というところですねー。