面接画報|ひろいようこ

廣井氏とはまだ出会って間もないけれど、そのわりに濃い付き合いをすることになった。それは彼女が私のワークショップを受け、その後、振付作品に出演してくれたからだ。彼女の身体に向き合い、身体の抱える課題を解き明かしながらのつきあいだ。そして彼女はビックリするくらい熱中する。彼女のパフォーマンスを最初に見たとき、私の動きに似ている部分があると感じたが、身体をとことん観察する姿勢はやはり共通する。男性と間違えられたというエピソードを話してくれたことがあるが、スレンダーで中性的な身体で挑むパフォーマンスの題名が『マシュマロ・アワー』である。彼女独特の探求方法を知りたいところだ。

ちょっと似てる
手塚 私が最初に廣井さんに出会ったのは、私がスタッフをしていたST スポットという小劇場のダンスショーケース、ラボ20 のオーディションを廣井さんが最初に受けて、でも受からなかった時のそのオーディションでしたね。作品がとても印象に残りました。2 回目にオーディションを受けた時は、動き方が少し私に似ているなと思ったんです。
廣井 最初に受けたときは、まだどうしていいか分からない状態で、弱々しかったと思います。
手塚 そうですか?私には弱々しいという印象はあまりなくて、舞踏を本格的にやってきた人なのかなと思っていました。ハードな匂いを感じましたね。
廣井 ハードですか、濃厚なエキスっていう感じですかね(笑)。あの時、自分の内側をもっと掘り下げて、大野一雄さんの所に行き始めて自分のディープな部分を見始めた時でした。そんなとき岩淵多喜子さんがキュレーターを務めるラボ20 のオーディションがあって、どうしようと思いながら、ビロビローっと紐をつかったものをやってみたんだけど、自分の中では人目につくのが恐いというような気持ちがまだあって、ビクビクしていたら、岩淵さんに「自分の問題がまだ整理ついてないのではないかしら」というようなことを言われて、まったくその通りですみたいな。それからもう少し開き直れた時に、次のラボでキュレーターがディーン・モスのオーディションがあったんです。その時は結構いっちゃってたというか、今までパフォーマンスをやってきて体験したことのないような状態になりましたね。
手塚 そして見事に受かって本番はまたぐっと迫力がありましたね。終演後に身体の使い方について聞いたら、身体の内部に耳を澄ませて集中しているというようなことを話してくれましたけど、やはり自分と似たようなことをしていると分かって、なぜ動きの似ている部分があるのか分かったような気がしました。

美大生時代
手塚 ダンスを始めたのはいつからですか?
廣井 ダンスを始めたのは…美大に行っている時ですね。油絵をやっていてその延長線上で写真や映像なんかもちょこちょこやっていたんですけど、ちょっと学校へ行くのが嫌になってしまった時があって「ぷち引きこもり」というような。
手塚 「ぷち引きこもり」ですか、なんかかわいい。
廣井 授業はなんとか受けにいくものの、誰とも話さずに帰ってきたりした時期が少しあって、自分がどうしたいのか、いろいろ悩んでいて、でも音楽は好きだったのでライブなんかはよく行っていました。ライブ感が絵を描く行為にはなくて周りの人を見ていても何かダイナミズムみたいなものを感じないなーと思っていました。つまらなくなってフラフラとバイトばっかりやったりライブに行きまくったりしている時に、友人に「そんなに悶々としているならダンスのワークショップがあるから受けてみれば」と言われて、えー私踊りなんて出来ないよーっていう気持ちもあったけれど勇気をふりしぼって、あるダンサーのワークショップを受けたんです。そのワークショップは「踊る」というよりも力を抜いて脱力していくとか、身体の質を感じたり、空気を身体全体に通していくとか、色々な質感を感じることなどをやりました。それがすごく面白くてちょこちょこそのワークショップを受けていましたけれど、だからといって自分がダンスを続けていくなんて思っていなかったです。ちょっとやったからといって踊れるようになるとも思わなかったので。
手塚 それは大学時代のことですか?
廣井 そうですね、21、22 歳くらいの時ですね。その後、しばらくして、何かダンスの基礎になることをやらないことにはダメなのではないかと思い初めて、大人になってからだときついかなとは思ったのですがバレエに行き始めたのが25 歳くらいの時ですね。最初は全然ダメでしたけど、そのうちモダンダンスなんかもやって発表会に出たりもしました。途中、仕事の方に重点を置いて、ダンスをやめようと思ったこともあったので2 年くらいブランクがありましたが、身体の盛り上がりと気持ちの盛り上がりがピタッとあってきて、やっぱりもう一度踊りたいと思いました。
手塚 最初のキッカケはさっき言ったワークショップだったんですね。
廣井 そうですね、でもそのワークショップはジャンプを繰り返したりばかりしていたので、「なんじゃこりゃ」と思ったり、また舞踏をやっている人達も一緒に受講していて、そういう人達の中にはトランス状態になってしまう人やらいて、少し恐かったのですが、そうはならずに身体の内側に耳を澄ませていくことで冷静に楽しくできるなと思えるようになるまでとても時間がかかりましたね。

身体に向かう
手塚 油絵はどんなものを描いていたんですか?写実ですか?それとも抽象?
廣井 ええ、抽象ですかね。ペインティングナイフで勢いよく絵の具を走らせたりしながら描いていました。だから、今から思うとダンスに近い感覚なのかもしれません。絵の具をてんこ盛りにして、ドバっとキャンバスにぶちまけたり、ちょろちょろ、ピーとかリズムで描いたり。でも絵は合っていないなと思いました。大学に入ってから自分の作風はどういったものになるだろうと悩んでいるうちになぜか、自分の身体に向かっていってしまったんです。わりとドロッと暗いものなどを描いて、そのうち写真をやるようになっていって、自分の身体を病的な感じで撮ったり、またそういった映像作品を創ったりするようになりました。
手塚 自分自身の身体に興味を持ったということですよね。そしてやっぱり作品を創る欲求というものはすでにあったようですね。
廣井 そうですね。でも絵をコツコツと描いていくというタイプではないと気づいてはいました。
手塚 ライブによく行っていたということでしたけど、どんな音楽を聴いていたのですか?
廣井 中学生の時にブラスバンドでトランペットをやっていたんです。音楽はもともと好きだったんですよね。
手塚 でもブラスバンドとは違う種類の音楽を聴いていたんじゃないですか?
廣井 でも音の訴えかけるもの、波動みたいなものを感じたいという意味では同じだと思うんです。音は波なので。ギターのノイズや電子音などのノイズも好きだしハードコアロックが好きですね。でもクラシックやポップなものも嫌いじゃなくて聞いたりもします。
手塚 ギターのノイズなどが好きだったことが、そういう音楽を使っているダンスパフォーマンスに引かれていったという流れもあるのかな?
廣井 そうですね。あと兄の影響ということもありますかね。兄はわりとフリージャズやマイナーな音楽、映画などが好きでそういうものに私も触れて育ったという部分もあります。それが後々ダンスに引かれていく導火線になったかもしれませんね。

「マシュマロちゃん」への憧れ
手塚 今月の26 日に公演がありますよね。題名は『マシュマロ・アワーⅡ』ですか。Ⅱ(ツー)というのは、前にセッションハウスの21 フェスというダンスショーケースで私も見た作品の次のバージョンということですよね。ちなみになんで「マシュマロ」なんですか?
廣井 ディーン・モスがキュレーターだった時のラボ20に出演した後、五十肩になってしまったんです。ちょうど手塚さんのワークショップに行き始めた時だったと思うんですけど。ダンスの踊れないコンプレックスの次は身体コンプレックスというか、身体がとても固くてストレッチをしてもなかなか柔らかくならなかった。でも時々「マシュマロちゃん」みたいなふわふわと柔らかい雰囲気で色白の女性がいるじゃないですか?そういう人には私は絶対になれないなという気持ちと、でも自分の中にもそういう部分があるのかもしれないという。
手塚 「マシュマロちゃん」への憧れですかね?
廣井 ええ、そういうかわいい存在への憧れと抵抗とでも言いましょうか。怪我をしたことで余計に自分の中に欠けている柔らかさを思い知ってという感じで。そんなときに「マシュマロ」という存在がポンと頭に浮かんだんです。マシュマロって白くて柔らかくてふわふわで、しかも甘くて…いやー…みたいな。
手塚 (爆)いやー…てなに?
廣井 いや、いろんな感情がそこに含まれているというような。ああいう緩くて風通しの良いものって、身体を使っている人がだんだん求めるようになる部分なのではないかと思うんです。踊りを長くやっている人に受容性が多くみられるということもある気がするんです。そういう意味でも研究材料というか。私自身の根っこにある部分と結びついて出てきたモチーフですね。だから一回では終われなかったですね。
手塚 結局今回で何回目ですか?
廣井 2 回目が東京コンペで、今度やるのが3 回目ですね。東京コンペの時はヨガをやり始めたりした関係で身体がとても大きく変化してきて随分ちがってしまいました。色々な毒素が出たという感じで、そこで出し切ったのでまた身体は変化してきて今回はまた違ってくると思います。副題の「聖域リラックス」というタイトルは自分の身体が求めるという部分でもありますね。リラックスできるために普段自分で出来ることを探したりしています。

彼女流の技術
手塚 廣井さんのダンスはどうやって生まれてくるのでしょう。
廣井 動機のない振付は出来ないと感じていて、逆に自分の身体に潜む必然性さえ見つけることができれば踊ることができると感じます。
手塚 自分なりの技術というのはどういうものですか?
廣井 技術…。
手塚 つまりバレエの技術とかモダンのテクニックとかいうことではなく、廣井さんが踊るときに、コレは良いけど、こうなるとダメという判断が出てくると思うんですけど、そういう判断はどういうことが決め手になるのだろうか。
廣井 作品のコンセプトに見合った体の状態というか、演じるということではなく…
手塚 何でも良いという事ではないですよね。何か具体的なエピソードはないですか?
廣井 例えば最初にやった『マシュマロ・アワー』の時、マシュマロに向き合った時の自分の感情を見ながら動きを細かく探していって…。
手塚 探すのは本番中に探してるということですか?
廣井 練習でも探しているし、練習で出てきたことを少しなぞったりもしながら、次々別のことも生まれてきていてそれを自分で楽しみながらやっていっていますね。探し方がいい具合に冷静で、自分のことをちゃんと見ることができて、かつ自分で楽しくなってくるというような…。それがバランスをとれた時が一番いい状態ですね。逆に身体だけ意図的に暴走させてしまったり、また勝手に暴走してしまったり、それが作品のコンセプトからずれていたりするとダメですね。
手塚 今回『マシュマロ・アワーⅡ』を上演するペッパーズギャラリーは、私も公演をやったことがあるのですが、パフォーマンスをやるには結構狭い所ですよね。狭いスペースを選んだ理由はありますか?
廣井 自分の身の丈にまず合っているだろうという事と、お客さんと近い、親密な感じがあるところでやりたいという部分ですね。あと、どこの指を動かしたかも見えてしまう、そういう細かいところを見てもらいたいということですよね。
手塚 あの空間をどんな風に使って親密な、幸せな関係を持つことができるのかとても楽しみですね。